ブログ
2025/12/07

2つ目の爆弾。マンション管理組合の“静かな危機”

② 理事のなり手不足・高齢化で管理組合が回らない

前回は、
① 修繕積立金が足りない問題について書きました。

でも実は、その前に立ちはだかる
もっと根っこの問題があります。

それが、

② 理事のなり手不足・高齢化で、管理組合がそもそも回らない

という現実です。


「理事になってくれませんか?」と言った瞬間の、あの空気

総会の終盤、議長がこう切り出します。

「では次期の理事さんを選任したいと思います…」

その瞬間、
みんな一斉に資料を見始めたり、スマホを触り出したり、
急に咳払いが増えたりしませんか。

  • 「仕事が忙しくてとても…」

  • 「高齢なので体力的に難しいです」

  • 「前やりましたから、今度は別の方で…」

どれも本音だし、責められません。
でも結果として、

  • 同じ人が何期も続けて引き受ける

  • 高齢の理事長一人に負担が集中する

  • 誰も手を挙げず、ギリギリで“くじ引き”に逃げる

こうして、
「管理組合は存在するけど、実質機能していない」 というマンションが増えています。


なぜ理事が集まらないのか? 3つの本音

表向きの理由はいろいろですが、
根っこの本音はだいたいこの3つです。

1. 「責任が重そうで怖い」

  • 何かあったら自分が責任を取らされるんじゃないか

  • 決めたことにクレームが来たら、自分が矢面に立つのでは?

こう感じている人は多いです。

ニュースで「管理組合理事長が…」という見出しを見るたびに、
「やっぱり関わらない方が安全だ」と思ってしまうのは自然な反応です。

2. 「何をやればいいのか、よくわからない」

  • 仕事の中身が見えない

  • 規約や議事録を読んでも専門用語だらけ

  • 前の理事からの引き継ぎもほぼ口頭だけ

こうなると、人は本能的に

「よく分からないものには関わりたくない」

と感じます。

3. 「やっても評価されない・感謝されない」

  • ボランティアなのに時間を大量に取られる

  • 何か決めるたびに文句だけ言われる

  • 住民から「管理会社がやるもんだと思ってた」と言われる

これでは、

「誰が好き好んでやるんだろう…?」

となってしまいます。


でも、理事会が機能しないと何が起きるか?

理事会が“名ばかり”になると、
短期的には何も起きないように見えます。

管理会社が最低限のことはやってくれるし、
エレベーターも動くし、ゴミも回収されます。

しかし、中長期では確実にこうなります。

  • 長期修繕計画の見直しができない

  • 修繕積立金の値上げなど「嫌われる決断」が先送りされる

  • 建物の老朽化とともに、資産価値がジワジワ落ちていく

そしていざ、

  • 大規模修繕

  • エレベーターの更新

  • 配管の大規模交換

といった“重たい決断”が必要になったとき、
誰も決められない・誰も仕切れない という地獄がやってきます。


解決のカギは「頑張る人を増やす」ではない

よくある間違いは、

「もっとみんなが協力してくれれば…」
「住民意識が低いからダメなんだ」

と、“人の意識”のせいにしてしまうことです。

でも、ここで発想を変えた方がいい。

「立派なボランティア」を増やすのではなく、
「普通の人でもできる仕組み」に変える

これが、理事のなり手不足に対する本質的な処方箋です。


ステップ1:理事の仕事を「重役」から「パートタイム」に分解する

まず最初にやることは、
理事の仕事を細かく分解して、軽くすること です。

1. 仕事を“タスク”に分けて見える化

例えばこんな感じです。

  • 総会の準備(議案書の確認・日程調整)

  • 理事会の開催(年○回、1回○時間)

  • 管理会社との打ち合わせ

  • 修繕・トラブル時の対応(メール確認・承認作業 など)

  • 年1回の決算・予算確認

これを一覧にして、

  • 年にどのくらい時間がかかるのか

  • どの作業はメールでできて、どの作業は対面が必要か

を具体的に書き出します。

「何をするか分からない不安」を
「これくらいならできそう」に変えるための作業です。

2. 役割を“細かく”分ける

次に、
理事長・副理事長・会計・書記…
みたいな従来の区分だけではなく、

  • オンライン担当(メール・掲示板の更新など)

  • 会計チェック担当(数字を見るのが得意な人)

  • 総会・イベント担当(人前で話すのが平気な人)

といった形で、“得意分野”ごとに細かく役割を切ります。

「全部を1人に押し付ける」
から
「ちょっとずつ分け合う」

に変えるイメージです。


ステップ2:「専門的なところは外注する」と割り切る

理事の負担が重くなる最大の原因は、

専門的な仕事まで、素人の理事が抱え込もうとすること

です。

外に出してしまった方がいい仕事

  • 長期修繕計画の作成・見直し

  • 大規模修繕の仕様書作成・見積もり比較

  • 会計監査・不正防止のチェック

  • 規約や細則の改定(法律が絡む部分)

こういった仕事は、本来、

  • マンション管理士

  • 一級建築士・設計事務所

  • 会計士・税理士

  • 弁護士

といった“プロ”に任せた方がいい分野です。

お金はかかりますが、

専門的な判断を外注することで、
理事の心理的負担が一気に軽くなる。

その結果として、

  • 「自分たちは、プロの提案を理解して選ぶだけでいい」

  • 「判断の根拠を“プロの意見”として住民に説明できる」

という状況が生まれます。

これだけでも、

「理事なんて、とても無理です」

と言っていた人が、
「それなら自分にもできるかもしれない」と
一歩前に出やすくなります。


ステップ3:“くじ引き”ではなく“希望制+交代ルール”にする

次に大事なのが「選び方」です。

1. くじ引きは“最後の手段”にする

  • いきなり「ランダムで当たった人がやる」

  • しかも期間が長い(2年・3年)

これは、誰が見ても「罰ゲーム」です。

そうではなく、

2. まずは“希望制+短期”から

  • 1〜2年ごとに「理事立候補」の募集をかける

  • 「こんな感じの仕事です」「このくらいの時間です」と具体的に伝える

  • 「1年だけ」「この役割だけ」という参加の仕方もOKにする

「理事長は無理だけど、
会計補佐なら1年くらいならやってもいいかも」

こういう人が必ず出てきます。

3. 「一度やったら当分免除」のルールを見える化

  • 一度理事をやった人は、○年間は免除

  • 高齢者・持病がある人・シングルで子育て中などは配慮対象

みたいな “免除ルール” をきちんと決めておく。

そうすると、

「いつ当たるか分からない恐怖」
から
「一回やっておけばしばらく休める安心感」

に変わります。


ステップ4:高齢理事長“一人におんぶ”をやめる

築年数が古いマンションでは、
70代・80代の理事長が頑張っているケースをよく見ます。

本当に頭が下がるのですが、
これには大きなリスクもあります。

  • 健康上の理由で急に続けられなくなる

  • インターネットやデジタルツールが使いづらく、情報が偏る

  • 一人で抱え込みすぎて、ある日突然「もうやめた」と燃え尽きる

解決の方向性は「二人三脚」+「世代ミックス」

  • 高齢の理事長の“経験値”は大きな資産

  • そこに、

    • 40〜50代の現役世代(IT・資料作り・数字に強い)

    • 30代の若手世代(SNS・オンラインツールに強い)

が加わることで、理事会のバランスは格段に良くなります。

理想形は、

  • 名実ともにトップは高齢の理事長

  • 実務の多くは副理事長・若手理事が分担

  • メール対応・オンライン会議・資料作成は“若い人担当”

みたいな“チーム体制”です。


ステップ5:理事会を「クレーム処理係」から「資産価値を守るチーム」に変える

理事になりたくない理由の一つに、

「文句言われるだけの役割」

というイメージがあります。

ここを意識的に変えていくことも大事です。

1. 「何のために理事会があるのか」を言葉にする

例えば、こんなメッセージを総会資料の最初に書くだけでも違います。

このマンションの理事会は、
「住みやすさ」と「資産価値」を守るための代表チームです。
クレーム処理係ではなく、
10年後・20年後の私たちの暮らしを設計する役割を担っています。

言葉を変えると、
その役割に感じる“価値”も変わってきます。

2. 「評価される経験」に変えてあげる

  • 年1回、「理事会だより」でやったことを分かりやすく共有する

  • 「今回の修繕で、これだけ費用を抑えました」

  • 「この値上げで、将来の一時金○○万円を避けられます」

こうして“成果”を言語化して出してあげると、
理事をやった人の中に、

「大変だけど、やってよかったかもしれない」

という感覚が残ります。

その空気は、確実に次の世代の理事候補に伝わっていきます。


いま、理事長として疲れているあなたへ

もしこの記事を読んでいるあなたが、
現役の理事長や理事だとしたら、
もしかしたらこんな気持ちを抱えているかもしれません。

  • 「もういい加減、誰か代わってよ…」

  • 「でも代わりがいないから言い出せない」

  • 「自分が倒れたら、このマンションどうなるんだろう」

その不安も、疲れも、全部とても自然なものです。

でも、ここだけは覚えておいてほしい。

あなたの役割は、「全部一人で頑張ること」ではない。
「みんなで回せる仕組みを作って、次の人にバトンを渡すこと」です。

  • 仕事を分解して軽くする

  • 専門的なところはプロに任せる

  • 選び方のルールを変える

  • 高齢者と現役世代の“二人三脚”体制にする

このあたりを少しずつでも整えていけば、
「理事になりたくないマンション」から
「理事なら、1回くらいはやってもいいかも」のマンション
に変わっていきます。


次回は「老朽化・空室増加・準スラム化リスク」の話へ

ここまでで、

  1. 1)修繕積立金が足りない

  2. 2)理事のなり手不足・高齢化で管理組合が回らない

この2つを見てきました。

次は、
その先にあるもっと厳しいテーマ――

③ 老朽化と空室増加で「準スラム化」していく不安

について、

  • 何が起き始めたら“黄色信号”なのか

  • どうやって早めに手を打てるのか

  • 投資家・居住者それぞれの視点から何を見ておけばいいか

を整理していきます。

「うちも理事が集まらないんだよな…」と感じたら、
この記事を、
理事会の仲間やマンションのLINEグループに
そっと投げ込んでみてください。

それが、
この“静かな危機”を少しずつ動かす
最初の一歩になるかもしれません。

査定入口
店舗紹介
投資オーナー様
住宅ローンシミュレーション
相場を調べる
不動産用語集
ベルアールブログ
会社情報

有限会社ベルアール

久喜店

〒346-0012
埼玉県久喜市栗原4-1-27
TEL:0480-23-8244
FAX:0480-21-6304
お問い合わせはこちら

宅建免許番号:埼玉県知事(6)18203