② 理事のなり手不足・高齢化で管理組合が回らない
前回は、
① 修繕積立金が足りない問題について書きました。
でも実は、その前に立ちはだかる
もっと根っこの問題があります。
それが、
② 理事のなり手不足・高齢化で、管理組合がそもそも回らない
という現実です。
「理事になってくれませんか?」と言った瞬間の、あの空気
総会の終盤、議長がこう切り出します。
「では次期の理事さんを選任したいと思います…」
その瞬間、
みんな一斉に資料を見始めたり、スマホを触り出したり、
急に咳払いが増えたりしませんか。
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「仕事が忙しくてとても…」
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「高齢なので体力的に難しいです」
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「前やりましたから、今度は別の方で…」
どれも本音だし、責められません。
でも結果として、
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同じ人が何期も続けて引き受ける
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高齢の理事長一人に負担が集中する
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誰も手を挙げず、ギリギリで“くじ引き”に逃げる
こうして、
「管理組合は存在するけど、実質機能していない」 というマンションが増えています。
なぜ理事が集まらないのか? 3つの本音
表向きの理由はいろいろですが、
根っこの本音はだいたいこの3つです。
1. 「責任が重そうで怖い」
こう感じている人は多いです。
ニュースで「管理組合理事長が…」という見出しを見るたびに、
「やっぱり関わらない方が安全だ」と思ってしまうのは自然な反応です。
2. 「何をやればいいのか、よくわからない」
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仕事の中身が見えない
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規約や議事録を読んでも専門用語だらけ
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前の理事からの引き継ぎもほぼ口頭だけ
こうなると、人は本能的に
「よく分からないものには関わりたくない」
と感じます。
3. 「やっても評価されない・感謝されない」
これでは、
「誰が好き好んでやるんだろう…?」
となってしまいます。
でも、理事会が機能しないと何が起きるか?
理事会が“名ばかり”になると、
短期的には何も起きないように見えます。
管理会社が最低限のことはやってくれるし、
エレベーターも動くし、ゴミも回収されます。
しかし、中長期では確実にこうなります。
そしていざ、
といった“重たい決断”が必要になったとき、
誰も決められない・誰も仕切れない という地獄がやってきます。
解決のカギは「頑張る人を増やす」ではない
よくある間違いは、
「もっとみんなが協力してくれれば…」
「住民意識が低いからダメなんだ」
と、“人の意識”のせいにしてしまうことです。
でも、ここで発想を変えた方がいい。
「立派なボランティア」を増やすのではなく、
「普通の人でもできる仕組み」に変える
これが、理事のなり手不足に対する本質的な処方箋です。
ステップ1:理事の仕事を「重役」から「パートタイム」に分解する
まず最初にやることは、
理事の仕事を細かく分解して、軽くすること です。
1. 仕事を“タスク”に分けて見える化
例えばこんな感じです。
これを一覧にして、
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年にどのくらい時間がかかるのか
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どの作業はメールでできて、どの作業は対面が必要か
を具体的に書き出します。
「何をするか分からない不安」を
「これくらいならできそう」に変えるための作業です。
2. 役割を“細かく”分ける
次に、
理事長・副理事長・会計・書記…
みたいな従来の区分だけではなく、
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オンライン担当(メール・掲示板の更新など)
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会計チェック担当(数字を見るのが得意な人)
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総会・イベント担当(人前で話すのが平気な人)
といった形で、“得意分野”ごとに細かく役割を切ります。
「全部を1人に押し付ける」
から
「ちょっとずつ分け合う」
に変えるイメージです。
ステップ2:「専門的なところは外注する」と割り切る
理事の負担が重くなる最大の原因は、
専門的な仕事まで、素人の理事が抱え込もうとすること
です。
外に出してしまった方がいい仕事
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長期修繕計画の作成・見直し
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大規模修繕の仕様書作成・見積もり比較
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会計監査・不正防止のチェック
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規約や細則の改定(法律が絡む部分)
こういった仕事は、本来、
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マンション管理士
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一級建築士・設計事務所
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会計士・税理士
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弁護士
といった“プロ”に任せた方がいい分野です。
お金はかかりますが、
専門的な判断を外注することで、
理事の心理的負担が一気に軽くなる。
その結果として、
という状況が生まれます。
これだけでも、
「理事なんて、とても無理です」
と言っていた人が、
「それなら自分にもできるかもしれない」と
一歩前に出やすくなります。
ステップ3:“くじ引き”ではなく“希望制+交代ルール”にする
次に大事なのが「選び方」です。
1. くじ引きは“最後の手段”にする
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いきなり「ランダムで当たった人がやる」
-
しかも期間が長い(2年・3年)
これは、誰が見ても「罰ゲーム」です。
そうではなく、
2. まずは“希望制+短期”から
「理事長は無理だけど、
会計補佐なら1年くらいならやってもいいかも」
こういう人が必ず出てきます。
3. 「一度やったら当分免除」のルールを見える化
みたいな “免除ルール” をきちんと決めておく。
そうすると、
「いつ当たるか分からない恐怖」
から
「一回やっておけばしばらく休める安心感」
に変わります。
ステップ4:高齢理事長“一人におんぶ”をやめる
築年数が古いマンションでは、
70代・80代の理事長が頑張っているケースをよく見ます。
本当に頭が下がるのですが、
これには大きなリスクもあります。
解決の方向性は「二人三脚」+「世代ミックス」
が加わることで、理事会のバランスは格段に良くなります。
理想形は、
みたいな“チーム体制”です。
ステップ5:理事会を「クレーム処理係」から「資産価値を守るチーム」に変える
理事になりたくない理由の一つに、
「文句言われるだけの役割」
というイメージがあります。
ここを意識的に変えていくことも大事です。
1. 「何のために理事会があるのか」を言葉にする
例えば、こんなメッセージを総会資料の最初に書くだけでも違います。
このマンションの理事会は、
「住みやすさ」と「資産価値」を守るための代表チームです。
クレーム処理係ではなく、
10年後・20年後の私たちの暮らしを設計する役割を担っています。
言葉を変えると、
その役割に感じる“価値”も変わってきます。
2. 「評価される経験」に変えてあげる
こうして“成果”を言語化して出してあげると、
理事をやった人の中に、
「大変だけど、やってよかったかもしれない」
という感覚が残ります。
その空気は、確実に次の世代の理事候補に伝わっていきます。
いま、理事長として疲れているあなたへ
もしこの記事を読んでいるあなたが、
現役の理事長や理事だとしたら、
もしかしたらこんな気持ちを抱えているかもしれません。
その不安も、疲れも、全部とても自然なものです。
でも、ここだけは覚えておいてほしい。
あなたの役割は、「全部一人で頑張ること」ではない。
「みんなで回せる仕組みを作って、次の人にバトンを渡すこと」です。
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仕事を分解して軽くする
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専門的なところはプロに任せる
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選び方のルールを変える
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高齢者と現役世代の“二人三脚”体制にする
このあたりを少しずつでも整えていけば、
「理事になりたくないマンション」から
「理事なら、1回くらいはやってもいいかも」のマンションに変わっていきます。
次回は「老朽化・空室増加・準スラム化リスク」の話へ
ここまでで、
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1)修繕積立金が足りない
-
2)理事のなり手不足・高齢化で管理組合が回らない
この2つを見てきました。
次は、
その先にあるもっと厳しいテーマ――
③ 老朽化と空室増加で「準スラム化」していく不安
について、
を整理していきます。
「うちも理事が集まらないんだよな…」と感じたら、
この記事を、
理事会の仲間やマンションのLINEグループに
そっと投げ込んでみてください。
それが、
この“静かな危機”を少しずつ動かす
最初の一歩になるかもしれません。
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